映画「コンプリシティ 優しい共犯」の近浦啓監督インタビュー

 

2020年映画界の幕開けを告げる、映画「コンプリシティ 優しい共犯」(配給・クロック・ワークス)が1月17日から全国公開している。本作品は「トロント国際映画祭」や「ベルリン国際映画祭」「釜山国際映画祭」「グラスゴー国際映画祭」に正式出品し、「東京フィルメックス」で観客賞を受賞するなど今世界を席巻している話題作だ。待望の札幌公開はシアターキノで2月8日から始まる。今回、来札した近浦啓監督に話を聞いた。

◇インタビュー◇
Q 脚本の構想はいつから―
A 2014年の冬で、きっかけは技能実習生に関するニュースをたまたま目にした。その当時は日本で技能実習生のあり方や失踪のニュースはそこまで大きく取り上げられていなかった。日本国内で一般的に起こってきたのは2018年から。ある記事でベトナムの実習生がある研究機関の除草用に飼っていたヤギを殺して解体して食べたという事件があり、衝撃を受けた。スーパーに行けば数百円で肉が食べられる日本で、わざわざ殺して解体して食べることは非常に労力だし、僕が想像している日本にいる外国の方とはかなりギャップがあった。元々はドキュメンタリーを撮ろうと思って取材を始めた。技能実習制度などを1年くらい取材を続けて、彼が裁判の中で「おなかがすいていたから」と非常にプリミティブ(素朴な)な理由を話していて、2度衝撃を受けた。彼のおなかがすいたという言葉は、僕らが昼ご飯が食べられなくて夕方おなかがすいたというレベルではない。それでより興味が深まり、足かけ1年半くらい取材し、受入機関、本国の送り出し機関にも話を聞いた。

 

Q これまでは短編映画だったが―
A 長編映画を撮りたいと思っていて脚本の題材を探していた。彼らと話していると、日本国有の制度の問題もあるが、自分のいつか昔のことを見ているかのような感覚があった。立場も違うし深刻さも違うと思うが、彼らは本国で100万円~200万円の借金を抱えてこちらにやってくる。来る前は借金は1年で返せる。3年働けるからしっかりお金をためて、かつ教育を受けて帰って来られる。大きな期待を持って来ていた。実際はそういう状況ではなく、夢と期待と現実のギャップがすごくあった。これは誰しも成長するときに感じるものだと思う。僕も何度もあった。そこは普遍的なテーマであって、これはドキュメンタリーではなく劇映画、フィクションとして撮ろう。かつ、映画作家として取り組むべきだと思ったのは、その1人にフォーカスした人間のドラマであって、制度の善しあし、何かがダメだというジャッジの映画ではなく、あくまでも失踪した技能実習生の物語を撮るということが、僕としては興味があったし、やるべき事だと思った。

 

Q 作品を通して具体的には―
A 技能実習制のときの状況はブラックボックスでまったく描いていない。失踪した後のことを描いている。ブラックボックスの空白部分はいったい何があったかは、オーディエンス(見る人)の方々が自分の視点で考えてもらいたい。自分と似たような登場人物が青春の淡い恋があったり、お世話になった人がいたり、恩返しが出来ないという中で生きている様子を描写できればいいんじゃないかと思った。設定だけ見れば社会派だが、実際はクラシックな映画です。脚本は2015年から書き始めて、7校(7回書き直し)後、2017年に撮影に入った。

Q 本作の狙いは―
A それなりの多くの人が共感しうる人間の物語を描きたいというのが、僕の普遍的な希望であり、目標だった。中国人が主役の映画は非常に少ない。多様性の時代の中で、そういったドラマも日本の中で生まれていてもいいのではないかと思う。

Q 初の長編映画で短編との違いは―
A 予想以上に難しかった。何分と決められている訳ではないが、国際映画祭の短編は、僕は15分くらいで作っている。15分の映画が6本あれば90分の映画ができる。15分の使い方は自分の体に染みついていたので、かける6で90分の映画を作ればいいと思っていた。その感覚は甘かった。15分であれば最初の8分をオーディエンスに我慢してもらって、あとでストンと落ちをつけて納得させれば成立するかもしれない。長編は90分なので、人間の我慢の限度もある。ある程度波を作っていくとか、どこで眠気を覚ますとか、時間の使い方が違った。ドラマを紡いでいくというのは一緒だが、90分の時間の使い方ということに関して、撮影もそうだが、編集が特に大変だった。

Q 長編の魅力が深まったか―
A 短編はやっていておもしろかった。長編の良いところは簡単にいうとアウトプット。劇場は今の文化の中で成立している。僕は映画館が好きだった。映画館でかけられる映画を作れるかも知れないという点で、長編は格別。短編映画の場合、出口がほぼ映画祭になり、選出されるとうれしい。5000本中18本が選ばれる狭き門で、僕が入選したロカルノ国際映画祭(2017年)などに行くと、映画祭側がオーディエンスを用意しているので、400人くらいの席が必ず満席になる。長編の場合、チケットを映画館で買って来てもらうので、そんな簡単に人が埋まらない。どうやって劇場にお客様を呼んでいくのかは難しいことだし、長期的に2作目、3作目で取り組んでいかなければならないし、次の作品のアイデアは進んでいる。

 

Q ロケ地は中国と日本だったが苦労は―
A 日本での苦労はほとんどなかった。優秀なスタッフに助けてもらってスムーズにできた。劇中で使っている蕎麦屋は一から作った。日本アカデミー賞を何度も取っている美術監督の部谷京子さんにお願いして、空き家の物件を蕎麦屋と自宅が合体した物件に改装した。美術の方々に非常に重要なセットだったので、熱心に作っていただいた。
中国のロケは大変だった。僕のイメージにピッタリあうところ。北京から河南省までは南に1000キロくらいにあり、河南省だけで日本くらいの広さがある。高速道路では分からないので、下の道で5日間くらい回って良い町を探した。僕が探していたのは最貧層と都市部の中間くらいで、みなさん非常に元気で生きていて、幸せそうな町だが、雇用機会が限定的で若者のある割合は大都会や海外に働きに行く町を取材しながら見つけた。中国のパートナーでさえも(ロケ地は)ギャップがあり、地元の方々も気づいていて、言い方は悪いが階級差というか目も合わせない。ある意味、中国の奥深さを感じた。

Q 撮影でこだわった点は―
A 中国と日本で30日弱だった。現場での反射神経、適切に反応していくことが重要だった。現場で役者と演技を付けているときに脚本上で変わることがあって、最初のイメージの絵と変わることがあるので、撮影も変わる。そういったことに臨機応変に反応できる、反射神経のいいカメラマン、山崎裕さんに撮影してもらった。僕もできる限り柔軟に対応しようと考えていた。

 

Q 作品全編を通して暴力シーンが少ないが―
A 1点目はどんなキャラクターを描こうとしているか。この映画の特長は、最初から人間関係に障害がない。そんな中でどうやってドラマを作っていくのか、僕の中でもチャレンジだった。物語で必要だから登場人物を造形することはやりたくなかった。この町(ロケ地)に住む人が、仮に遠い中国から蕎麦を学びに着た青年がいたとしたら、中国人だから教えたくないと言うだろうかと思う。人物造形をやっていく中で、どんなドラマが存在するのかというところで映画を作っていったので、通常の最初に障害があるという雰囲気のものではない。それでいてドラマを見ていくと彼らの関係が何かしら変容していくことが描けた。弘(藤竜也)という店主が暴力を振るうのか、振るわないよね、というのが1点目。
2点目は必要であれば(暴力シーンを)描くのはありだと思う。暴力シーンや性描写はマーケット的には重要。個人的にはリアルにはかなわないと思う。インターネット上にボコボコされている映像があがってきたりする。その痛みと比べるとフィクションで作る暴力やセンセーショナルなものは、僕は何の衝撃もないと感じる。当面はそういうものとは距離を置きたいと思う。作家としてはあまり興味がない。

Q スマホの使い方が巧みだったが―
A スマートフォンは映画作家からすると非常に難しい。25年前と比べるとメールやSNSが人間関係において重要な役割を果たしている。それを一切描かないと、なかなか人間関係を描けない。今回は音声メッセージでやっている。僕も中国に行くようになり、音声をそのまま吹き込んで届ける、これは使いやすいと思った。しゃべらせることが出来る。あの小道具は最後の最後まで使ったが、映画作家としては、良い道具だと思った。携帯の音が繰り返し鳴っていくが、うっとうしいくらいでちょうどいいと思った。繰り返しの中で状態が変わっていく、同じ事を繰り返すようで何かが変わっていくことが、僕はおもしろかった。

Q 全体にわたって音楽が少ないようだが―
A 音楽の力を借りて感情を助長することに関しては、まったくやらないとは約束できないが、自覚的でありたい。佐野元春さんや井上陽水さん、ドリカムさん、矢沢永吉さんなどのアーティストのドキュメンタリーを作ったり、ミュージックビデオも作ったので、音楽の強さを知っている。このシーンで、感情をこう持っていくために、この音楽を当てれば来るという、安易なところに持って行きたくない。映画として、オーディエンスとちゃんと向き合いたいと思っているので、安易な(音楽の)使い方をしていると自分の底力が分からなくなる。人を感動させたのは音楽のおかげなのか、登場人物あるいは物語が感動させたのか、深く心をつかんだのか分からなくなる。1作目からやるべきではないと思っていた。なので、音楽は極力避けようと思っていた。テレサ・テンさんの曲を使ったのはアジア諸国の共通のメロディーの記憶だから。言葉は違うがみんな歌える。テレサ・テンさん以外では、クラブのシーンの音楽は、この映画のためにクオリティーの高いものを作った。それ以外はBGMの1つだけ。劇映画として成立させるために。風の音などを取り込んで曲を作る佐賀県在住のアーティストを捜し出した。BGMはこの映画のために作ったのではなく、あるものを使った。

 

Q キャストについて―
A 藤竜也さんは一緒に映画を作りたかった。映画の俳優で、彼のような日本の俳優は非常に少なく、海外でも本当によく知られて、みなさんから尊敬されている。実際に仕事をしてもため息がつくことが多くて、あらためてレジェンドの1人だと思う。脚本も藤竜也をイメージして作った。
松本紀保さんは舞台を中心に活動されていて映画は2回目だが、本格的な映画出演は初めて。あの藤竜也の娘としてちゃんと収まる役者は非常に少ないと思っている。蕎麦屋の娘にスッと収まっていく様を見ていると感銘を受けた。すばらしいと思った。
主人公のルー・ユーライは北京でオーディションして最後に会った。一瞬にしてこの人がいいと思った。自分が描いている登場人物に1番近く、その場で決めた。慣れない日本での撮影だったがまったく問題なく、僕が求めていたキャラクター表現にしっかりと実現してくれた。彼との会話はメインが英語で話し、細かい点は通訳を介したが、コミュニケーションでは苦労しなかった。
葉月役の赤坂沙世さんは映画出演が初めて。通常はモデルとかファッション系の人。インスタグラムで動画を上げていて、そのときの雰囲気が現実離れしている感じがあり、この物語にもそういった非現実なファンタジーの存在が主人公にも、映画作品にも必要だったので、上海まで会いに行った。演技はそのままいてくれればいいからと話した。僕はバッチリだったと思う。

Q 主人公と葉月について―
A 出会うことはないし、あんなにうまい話に行かない。だから、おもしろい。映画で一目惚れを描かねばならないことが多い。徐々に好きになるのは、映画では描きにくい。徐々には映画では写らない。何かが起こって変化しなければいけない。何かの事件があって好きになるのか、一目で見てパンと好きになるのか、今回の場合は前者。それをどう描くのか、作家としてはチャレンジし甲斐があった。

Q 印象的なラストシーンだったが―
A この話はリアリズムと言うよりは寓話(ぐうわ)です。中国人の技能実習を主役としてリアリズムではなく、寓話(ぐうわ)を作ることが念頭にあった。寓話(ぐうわ)なのでラストはオープンエンディング(観客が作品を見終わって、その後の物語をどうなるのか考えること)ではダメだと思った。曖昧でどうなるか分からないというのは良くない。作家としては明確に意味を込めた。

Q 最後に札幌のファンへ―
A 会社を13年前につくり、一昨年札幌に支社を作ろうと思い支社ができた。僕にとっては家族のいるエリアであり、特別な場所です。(この映画を)楽しんでいただきたいというより、サポートしていただけると「うれしいな、ありがたいな」と思う。短編を卒業できると思ったのは、2017年に札幌国際短編映画祭で最高賞のグランプリをいただいた。そういった意味でも札幌は特別です。シアターキノで1日1回上映されるので、足を運んでサポートしていただければうれしいです。

 

◇物語◇
技能実習生として来日するも、劣悪な職場環境から逃げ出し、不法滞在者となってしまった中国人青年チェン・リャン。彼は他人になりすまし、蕎麦屋で働き口を見つける。口数が少なく不器用な蕎麦屋の主人の弘は、実の息子との関係も悪くどこか心に孤独を抱いていた。厳しくも温かい弘の背中に父を重ねるチェン・リャンと、彼の嘘をつゆ知らず情を深めていく弘。2人はまるで親子のような関係を築いていく。しかし、はかない嘘の上に築いた幸せは長く続かず、チェン・リャンを追う警察の手が迫り、すべてを清算する日がやってくる。その時、二人がお互いのためにある決断をする。

©️2018 CREATPS / Mystigri Pictures

 

◇キャスト◇
ルー・ユーライ(チェン・リャン/リュウ・ウェイ)、藤竜也(井上弘)、赤坂沙世(中西葉月)、松本紀保(井上香織)、バオ・リンユ(グゥイ・シュン)、シェ・リ(シュ・ヂェン)、ヨン・ジョン(ヨン・ジュン)、塚原大助(松村)、浜谷康幸(井上弘毅)、石田佳央(刑事)、堺小春(小春)/占部房子(井上恭子)※カッコは役名

◇監督・脚本・編集◇

近浦啓

◇主題歌◇

テレサ・テン

◇制作◇
クレイテプス/2018年製作/116分/G/日本・中国合作

◇「コンプリシティ 優しい共犯」公式ホームページ
https://complicity.movie/

◇上映劇場◇
シアターキノ(札幌市中央区狸小路6丁目 南3条グランドビル2F)、道外の上映館 https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=complicity#date