映画「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」の成島出監督インタビュー

映画監督の成島出監督(58)の最新作「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」が2月14日から全国で公開される。公開に先立ち来札した成島監督に話を聞いた。

 

◇インタビュー◇
Q なぜ映画の題材に太宰治の「グッドバイ」を選んだのか―
A ひと言でいうとKERAさん(ケラリー・サンドロヴィッチ)の舞台を見に行き、すごくおもしろく、これは映画になるかも知れないと思った。もともと太宰は好きな作家の1人。未完の「グッドバイ」は、絵描きのケイ子さんのところに行く途中でシベリア帰りの兄がいるらしいで、終わっている。KERAさんはそこからどうやって最後までもっていったのだろうという興味があった。もうひとつは、私の映画で常連の小池栄子さんがキヌ子を(KERAさんの舞台で)やるというので、KERAさんと小池栄子さんが作ったキヌ子がどんなヒロインになっているのか楽しみだった。そんな3つの要素で観たのが最初だった。2015年に観たとき、劇場(の観客)がすごく笑うんですよね。生の強さもあるが、映画ではなかなかあの笑いは出せないし、うらやましいと思った。

 

Q今回の作品は奇想天外なコメディーだが、コメディーは好きか―
A もともとコメディーは好きでやりたかった。デビュー作の「油断大敵」(2004年)は少し喜劇っぽいが、ここまでのものではないので、やりたい思いがあった。脚本の奥寺佐渡子さんと話していたが、なかなか良い題材がなかった。もう一方で小池栄子さんを主役で撮りたい思いがあった。これ(グッドバイ)であれば、その両方がかなうと思った。そこで映画「八日目の蝉」や「ソロモンの偽証」を撮ったチームやプロデューサーに見てもらい、「行けるんじゃないか」となり進め始めた。
Q 撮り終えて想像通りの出来栄えか―
A 大泉洋さんと小池栄子さんの化学反応がおもしろかった。相性がよかった。舞台の田島役は仲村トオルさんはだが、映画は(その雰囲気を)少し崩して柔らかく二枚目半にしたかった。それですぐ大泉さんが浮かんだ。大泉さんと小池さんがかけ算したら、おもしろいことができると思った。実際、いい意味でかけ算になってくれた。
Q化学反応を感じたときは―
A 田島がキヌ子を手込めにしようとして彼女のアパートに行くが、こてんぱんにやられて、そこから女性のペースになって行くシーン。それとキヌ子と一緒に行って(愛人の水原ケイ子の)お兄ちゃんが帰って来る、あのドタバタの感じはうまくいったシーンで、2日かけて撮った。あのシーンが現場でも手応えがあって、2人の掛け合いがすごく良くて「これは行けるかな」と思った。
Q 監督のコメディー感とは―
A 昔からチャプリンが好きだった。映画監督のエルンスト・ルビッチやビリー・ワイルダーも。人間味のあるコメディー、ドラマがあるコメディーをやりたいと思っていた。最近はシチュエーションコメディーが多いので、そういうものではなく、人間ドラマで笑えるものがいいなと思っていた。

 

Q この作品の狙いは―
A 違うかも知れないが、1番惹かれたのは女性陣が強いこと。終戦後3年なのに、戦争未亡人がたくさんいたり、キャバレーで働いたり、女を売ることが今よりも多かった。登場人物はみんな自立している。それがいいなと思い、花屋さん、挿絵画家、女医さん、(田島の)奥さんは学校の先生の設定で、全員働いて自立している。この人たちのりんとした感じがいいなと思った。終戦3年目の話だが、今(この当時を)映画にしても女性に応援してもらえるのではないか。特にキヌ子は美貌なのに牛のように怪力。自分で稼いで、おしゃれして映画館に行く生き方をしている。映画の後半で田島が「戦争で300万人が殺されて何もかもが変わった。俺も変わった」と、牙城が崩壊していく。キヌ子は「私は何も変わらないわよ」と。時代の激変の中で、あのひと言が言えるはすごいなと思う。りんとしているというか、格好いい。そんなにしっかりしていてお金もためるのに、間抜けな墓を建てるキャラクターは、チャーミングだ。そのチャーミングさがあっての喜劇だと思う。戦争未亡人で喜劇を作るのは難しい。女性が前向きに生きているから、ネガティブな感じがしない。田島がやられていてもかわいそうではなく「やられてしまえ」と女性は観てくれるのではと思う。そこが自分の中では大事なポイント。

 

Q 美術のリアリティーさがすごかったが―
A 舞台は観客が背景を想像する空間。映画はすべて映ってしまう。演劇のように想像してもらう訳にいかないので、ちゃんとそこをやらないといいかげんなものになってしまう。映画の世界に入ってもらいたかったからリアルに作った。
Q 衣装も凝っていたが―
A キヌ子は映画好きで、戦争の前までは外国の映画をたくさん観ていた。大正から戦争に突入する前までは、日本は豊かな国だった。今のサラリーマンは濃紺やグレースーツだが、あの頃の方がおしゃれ。夏は麻のスーツや、帽子はいいものをかぶったり。ある意味当時の方が今よりもおしゃれだった。ものがない分だけ、大事にしておしゃれに着ていた。

 

Q 演出のこだわりは―
A キヌ子の声のトーンを小池さんと考えた。舞台はオーバーにやるが、映画の場合は日常生活の中のカラス声にしなくてはならない。一度リハーサルのときに(小池さんの)普通の声でやってみたが、全然おもしろくなくてダメだった。そこでカラス声の強さを決めていった。
Q エピソードやアドリブは―
A 基本アドリブなしでお願いしている。だた、リハーサルでいろんなアイデアを出してもらっている。
Q 登場人物たちを魅力的にみせるこだわりは―
A 長回しが多かったが、長回しだと感じさせないようにしていた。お客様は茶の間でのライブに慣れているので、漫才と同じようにカット割りを感じさせないようにした。(舞台の)生で観ているときに観客が笑っていて、それがうらやましかった。大泉さんと小池さん、大泉さんと女性たちの掛け合いがおもしろいので、なるべくその空間を大事にしようと思って割らずに、どんぶり(ワンカットで撮ること)でやりたかった。

 

Q 作品中で監督の好きなキャラクターは―
A 青木さん(花屋さん)がおもしろい。緒川たまきさんがキャラクターの味を良く出してくれている。映画のスタートだったので、青木さんを誰にしようか、すごく悩んだ。舞台では女医さんをやっていた。舞台の青木さんは原作通り戦争未亡人の美容師さんで弱い女性なので、「グッドバイ」と言われて泣いてしまう。「グッドバイ」を言うための布石。映画は青木さんにもパワーが欲しくて緒川さんと相談して決めた。お金をもらいボーとするシーンなど良くやってもらった。

 

◇ストーリー◇
物語は終戦から3年がたった昭和の日本が舞台。文芸誌の編集長を務める田島周二(大泉)は情けないダメ男だが、10人以上の愛人を抱えている。青森に疎開させている妻子をそろそろ呼び戻そうと愛人たちと「グッドバイしよう」と決心する。しかし、ひとりでは別れを告げる勇気がない。文士の漆山連行(松重豊)に相談し、すごい美人を見つけ出し嘘女房になってもらう案を提案される。早速、美人を捜す田島の前に「すごい美人」の永井キヌ子(小池栄子)が現れた。2人は愛人たちに別れを告げに行くのだが…。

©2019『グッドバイ』フィルムパートナーズ

 

◇配給/キノフィルムズ

◇監督/成島出

◇原作/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
(太宰治「グッド・バイ」より)

◇出演/大泉洋、小池栄子、水川あさみ、橋本愛、緒川たまき、木村多江/濱田岳/松重豊ほか

◇公開劇場/札幌シネマフロンティア、ユナイテッド・シネマ札幌ほか