福永壮志監督と出演者秋辺デボさんインタビュー

北海道出身の福永壮志監督自身2作目の長編映画「アイヌモシ」が11月14日(土)から札幌のシアターキノを皮切りに順次公開される。公開に先立ちアイヌを題材にした本作について、福永監督と出演者の秋辺デボさんに話を聞いた。

インタビューに応える福永監督(左)とデボさん

 

【インタビュー】

Q なぜ、アイヌを題材にしたのか―

▽福永監督

僕は北海道出身で高校卒業まで伊達市にいたんですけど、アイヌのことをちゃんと知る機会を持てないまま思春期を過ごして、その後アメリカに留学に行った。

アメリカに行くと多民族国家で、それぞれの民族の方々が声をあげてそれを聞くという環境があった。その中に先住民のネイティブアメリカンがいて、その意識の違いをみて精神世界に興味を持ち初めた時に、アイヌのことを知らないで来てしまったことに気づいて…。

まずはアイヌについて知りたいという思いからその後いつか映画にできたらいいな、少しずつ形にできたらいいなと思った。

 

Q 作品の中で1番伝えたかったことは―

▽福永監督

ひと言では難しいですけど、作品にはいろんなものを詰めている。

それはとる人(観る人)が何を感じてくれるかなんですけど…。

願いとしては作品をみて、さらなる理解だったり、興味、関心、身近なこととして先入観がなくなればいいなという気持ちはあります。

アイヌを題材にとっていますが、少年の話だし、普遍的なテーマは共感できるんじゃないかと思います。

 

Q イオマンテが作品のキーワードとなっていると思いますが、脚本づくりで苦労したことは?

▽福永監督

自分が想像で書いても現実のアイヌのみなさんとの色々なギャップが生まれるだろうなということは意識していて、それをどうやって埋めるかということはいろんな方法で模索した。その1つとしてデボさんだったり(アイヌの)皆さんに本人役として出演をおねがいして自分の言葉で台詞を言ってもらったり、脚本でデボさんからアドバイスをもらったり、協力をお願いしてできるだけ制作の過程に加わってもらうという形で自分の足りないところを埋めてもらいました。

 

Q イオマンテについて議論するシーンは迫力があったが、アドリブなどはあったか

▽福永監督

話を組み立てる上でいくつかポイントがありましたが、それ以外はその場でみなさんの思っていることを話してもらいました。

▽デボさん

オレたちも一応台本は渡されて、見てから自由に話していた。テイク5、テイク6とやっているうちに本気になってね。実は映画で採用された部分はほぼほぼ本音。表情も。撮られている意識は持ちながら、本音で。あの場面で言えるってすごかったね。ただの素人じゃない。オレは経験者だけど、ほかのみなさんは普通に対応してたから、やっぱりぼくら舞台をやっていたのが生きたのかな。一番すごかったのはやっぱりそういうことを引き出すことをちゃんと思っていて、やれた監督がすごかった。

 

Q 編集などで苦労は

▽福永監督

大変でしたよ。楽しかったですけど、いいところがいっぱいあって。

▽デボさん

監督業の楽しみは編集ですからね。でも薄情にクールな目線で切ってたよ。あんなに苦労したのにと思ったのに。

 

Q キャスティングの多くがなぜアイヌの方々だったのか、また役者でない点に不安はなかったか―

▽福永監督

阿寒のみなさんに出演をお願いすることは、この映画を作る最初からセットというか、考えていたこと。アイヌを題材にした映画をつくるときに、ものだけじゃなくて作り方もすごく大事だと思った。自分だけで思い描いて架空の人物を作って、それを役者さんにお願いしても絶対間違いとか、ズレが出てくると思う。そういうことを映画でやってしまったら、本来の意図とズレてしまう。いろんなところで人と会って聞いたんですけど、阿寒でデボさんや絵美さん、みなさんとお会いして「この人たちとだったら絶対に作れる、成功する」と話しているうちに確信がついた。だから、最初からキャストをお願いした訳ではなく、話しを聞いてきっと大丈夫だなと思って相談した。

▽デボさん

監督から「やれますか」と言われていた。「大丈夫ですか」と言われて「大丈夫だよ」って話した覚えがある。うちのメンバーはみんな舞台をやっているから。うまく役者ができるとは思わないけど、本質をつかまえるということは経験値から今何を求められているのか、何をすべきなのか、自然につかまえられる人が多かった。映画を観て1人心配したけど、みんなうまくいっていたよ。その1人がオレなんだけど(笑い)。

 

Q 長編映画の出演は―

▽デボさん

初めてです。以前ほんのちょっとのシーンは頼まれたことはあるけど、これだけ責任のある場面にいるのはなかったですね。人間として福永監督の想いを感じてくれるというところが一番大事だと思っていて、それをみんなわかってくれると信じていた。映画を観てあらためてみんなちゃんとやっているな、わかっていてくれるよねって。撮った直後の監督はそう思ったんじゃないですか。

 

Q イオマンテの議論するシーンは―

▽デボさん

あれは本音ですよ。覚えていないけど脚本に「本音で言ってください」と書いてあったんじゃないかな。みんな忘れてしゃべっていたよ。でも本人は、反対は反対というスタンスを変えてないよね。それを求めていないから。

 

Q イオマンテシーンのカメラアングルは見事でした―

▽福永監督 

撮影監督(ショーン・プライス・ウィリアムズ)はとっても優れた人。アメリカの監督なんですけど、彼は(アングルの)切り方とかがとても斬新で、自主映画の作品をたくさん撮っていてニューヨークで活躍している。人を魅力的に撮るのが特徴で、僕はそういう撮影ができる監督だと思っていて、この映画でも発揮してくれた。

▽デボさん

オレはカメラマンを1番信用していた。ビンビン感じた。他の人を撮っている様子を見ていても、この人すごい人だなと思った。さすが福永監督が選んだ人だなと思った。カメラだけじゃなく音響さんも、少人数で信頼できる人たちで、撮られている方が気持ちよくなって感謝感激だったの。

 

Q 福永監督やカメラマン、音響さんからの注文は―

▽デボさん 

注文だらけですよ。

▽福永監督 

それは成り立たせるためには。

▽デボさん 

オレ、あんなに素直に「はい」って言ったことないよ。

 

Q 福永監督からの無茶な注文は―

▽デボさん 

ない。それよりカメラマンが水の中に入ったりとか、あの冷たい川の流れの中に入って、釣りのシーンを撮ったりとか、そこまでやるの! あのプロ根性はものすごかった。

 

Q デボさんもう一度福永監督から出演依頼があったら―

▽デボさん 

もうやだね(笑い)。冗談だよ。こんな立派な映画に出られるんなんてこと、こんな素敵なことはないですよ。本当に感謝している

 

Q みなさんの演技はいかがでしたか―

▽福永監督 

みなさん、素晴らしいですけど、デボさんはその中でも特別。舞台の演出だったり、本当に多彩な活動をされているので、演者としてだけではなく表現者として、俯瞰(ふかん)で作品のことも見て理解した上で、「こういういいかの方がいいんじゃないか」とか、文化事だけじゃなくてクリエイティブな面でも本当にたくさんアドバイスをもらって、すごく参考にしました。作品の大黒柱の立場というか、デボさんなしには絶対撮影できなかった映画です。主演の幹人(カント)君もそうだし、出演者みんな演技が初めてでも何かしらの表現をしてきている方がだから、そういう下地があって、それを新しい形で外に出している。 

▽デボさん 

今回、苦労したのでは演技に見えない演技をしようと徹底的に思った。オレの役はオレだから、いかにオレに近づけるかが難しくて。オレ、普段どうしてるんだろうみたいな。でも、そのまま行けるかなと思って、何でかというと幹人が自然だったから、いつもあいつと一緒にいるから違和感がないようにする意識がものすごくあった。(撮影の)一発目でね、幹人にやられたと思った。

 

Q 幹人君への演技指導は―

▽デボさん 

あいつ素人じゃないもん。天才だと思った。最初からできるから。それを引き出した監督も普段の付き合いの中で、それができる会話をしてたんだろうと思う。

 

Q 他の出演者リリーさんと三浦さんの主演について―

▽福永監督 

三浦さんの出演はもう少しあったが編集の段階で短くなった。リリーさんは最初からあれだけ。尺の問題ではなく、あのコミュニティとか、そこの世界を立体的に描く上で外の視点が必要だった。その視点の中で観光客とか、ちょっとした役がありますが、先生(三浦)とか新聞記者(リリー)の役はもう少し踏み込んでしっかりした演技が求められる。自然に実在感を持って演じることがなかなかできることではないので、あの2人ならできると思った。

 

Q リリーさんとの会話で「しゃも」(和人という意味)という言葉があったが―

▽福永監督 

あそこは台詞にも台本にもありました。でも、あそこからフィクションに入っていくから。外の視点も必要で、あの役はキーになるので(リリーさんは)適役だと思った。 

▽デボさん 

違う世界観で生まれ育った人が記者として来るじゃない。アイヌコタンにも来るんですよ。欲望を持って。記事になればいいやみなたいな。そんな人をイメージしてあのシーンを撮ったんだけど、(リリーさんは)ピッタリだった。(自分としては)一番苦しんだシーン。

▽福永監督 

やっぱり難しかった。他のカットとは違いますよ。

▽デボさん 

オレは役者じゃないと思っているんだけど、その足りなさが露呈していた。何とか監督のお陰であのシーンは追いついたのかな。オレがリリーさんにビビッていて、どうしていいか分からなくて。ビビり負けしてました。でも何とかなったからOKが出た。最後の捨て台詞は自分の本音でもあったからね。

 

Q 最後にファンへのメッセージを―

▽福永監督 

(映画を)観る前にアイヌを題材にした映画というと「難しい映画なのかな」と思う人がたくさんいると思うけど、そうじゃなくて。もちろん、テーマとして大きくありますが、少年の成長する話だし、誰しもが共感できる部分がいっぱいある。作品としてまずおもしろくなきゃ理解につながらないし、そこは意識して間口を広く作ることに意識したので、あまり構えないで、予備知識とか何も知らなくても観れる映画だと思うので、気軽に観てほしいと思います。

 

【ストーリー】

記憶、時間、風土と結びー

ちかくてとおい、ぼくが住む町のお話

                                (C)AINU MOSIR LLC/Booster Project

14歳の少年カントは、アイヌ民芸品店を営む母親のエミと北海道の阿寒湖畔のアイヌコタンで暮らしていた。北海道各地で定期的に開かれるアイヌの行事や、地元の踊りの練習に通い、自然にアイヌ文化に触れながら育ってきたカントだったが、一年前の父親の突然の死をきっかけにアイヌの活動に参加することをぴたりと止めてしまう。エミは、カントがアイヌ文化から離れていくことに戸惑いながらも、何かを無理強いすることはせずにカントをそっと見守っていた。
アイヌ文化と距離を置く一方で、カントは友人達と始めたバンドの練習に没頭し、翌年の中学校卒業後は高校進学のため故郷を離れることを予定していた。
亡き父親の友人で、アイヌコタンの中心的存在であるデボは、そんなカントの状況を不満に思っていた。デボは、カントを山での自給自足のキャンプに連れて行き、自然の中で育まれたアイヌの精神や文化について教えこもうとする。
デボが伝えようとすることに少しずつ理解を示すカントを見て喜ぶデボは、アイヌの精神世界を更に教え込もうと、密かに育てていた子熊の世話をカントに手伝わせるようになる。世話をする内に子熊への愛着を深めていくカント。しかし、デボは長年行われていない熊送りの儀式、イオマンテの復活のために子熊を 飼育していた。

 

【キャスト】

下倉幹人、秋辺デボ、下倉絵美
西田正男、松田健治、床州生、平澤隆二、廣野洋、邊泥敏弘、山本栄子、西田香代子、平澤隆太郎
OKI、 結城幸司/ 三浦透子、リリー・フランキー

 

【スタッフ】

◆監督・脚本/福永壮志

◆プロデューサー/エリック・ニアリ 三宅はるえ

◆撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ

◆音楽/クラリス・ジェンセン、OKI

◆ 編集/出口景子、福永壮志

◆録音/西山徹

◆ 整音/トム・ポール

◆チーフ助監督/相良健一 助監督

◆空音央 照明/ジャック・フォスター

◆ 装飾/野村哲也

◆制作担当/星野友紀

◆エグゼクティブプロデューサー/中林千賀子、宮川朋之、葛小松、项涛、ジャッド・エールリッヒ

◆共同プロデューサー:朱毅飞、福永壮志、ドナリ・ブラクストン、ジョシュ・ウィック

◆製作/シネリック・クリエイティブ、ブースタープロジェクト

◆ 共同製作/日本映画専門チャンネル

◆ 配給・宣伝/太秦

 

アイヌモシ公式サイト:http://ainumosir-movie.jp/

シアターキノ公式サイト:https://www.theaterkino.net/